実釣講座

 

カゴ釣りを楽しむ

 

■魚の釣れない時間帯

海はいつも同じように悠々として見えるが、潮の満ち干に伴う激しい流れがある。魚の行動も刻一刻と変化していて、仕掛けを投入すればいつでも釣れるというものではない。朝方と夕方が狙い時でマズメと言われるが、状況によっては必ずしもその時間帯がよく釣れるとは限らない。回遊魚が相手の場合には、魚が接岸しなければ勝負にならないのである。

 

魚が釣れない時間帯は、おおらかな気分で海を眺めたり、近くの釣り人と話したり、昼寝をしたりして、せっかく海へ来た時間を有意義に楽しんでいただきたい。季節の良い時期など、30分も昼寝すれば帰路の眠気が大幅に緩和される。

この時間帯、喫煙家はついついタバコを吸いたくなるものだが、そこを何とか我慢したいものだ。タバコを吸った場合には、吸い殻の処理に注意したい。海の中や釣り場に投げ捨てるのはもってのほかで、必ずゴミ袋に入れるのがルールである。ゴミを散らかさないためには、釣り場に着いたらすぐにビニール袋などをゴミ袋としてクーラーボックスなどに結び付けておくことをお勧めしたい。

 

しかし、せっかく釣りに来たのだから、釣れない時間帯でも昼寝などもっての他だと言う意見があるかもしれない。

釣れない時間帯の代表格は、潮止まりと言われる干潮と満潮の付近である。干満の前後では潮の流れが止まって、魚の食いが悪くなる。しかし、潮が止まった時はマダイなど底狙いのチャンスである。タナを思い切り深くとって仕掛けを海底すれすれまで沈め、根周りに居る高級魚を狙うのに適している。

とにかく、釣れなくなったら何かしら違ったことをしないといけない。狙う魚種を変える、タナを変える、仕掛けを変える、投入ポイントを変えるなどのアクションが必要である。気の短い人の方が釣りに向いていると言われるのは、このあたりに由来しているように思う。

面白いもので、釣れない時間帯における人々の様子を観察すると、釣り場によって随分違いのあることがわかる。ある堤防では、ほとんどの釣り人が竿を休めて周囲を見回し、誰かの竿が曲がるまでじっと投入を控えている。コマセの有効利用という視点からみると、非常に合理的な対応である。また、ある堤防では、釣れていなくても誰もが決して竿を休めることがない。他の釣り人には釣れなくても、自分だけは釣れるのだという信念と気迫が溢れている。釣り場それぞれの文化が感じられて面白い。

 

■隣の人はよく釣れるのに・・・

同じ場所で同じような道具を使い、数mの距離で並んで釣っていて、隣が3尾上げたのに自分はまだゼロという辛い経験が誰にでもある。

隣が1尾で自分がゼロならばまだ偶然の可能性があるが、3尾対ゼロとなれば話は違ってくる。いくら生業ではないと言っても、顔がこわばり、頭の中が真っ白になるものだ。

このような場合、焦らないで冷静に状況を分析しないといけない。釣れる人と、そうでない人の間には、必ず何らかの違いが有るはずなのだ。ただ無闇に遠投したり、釣り座を変えたりしても状況が好転するものではない。いったん竿を休めて深呼吸し、もう一度周囲の状況をよく観察した方がよい。釣り人が集中している人気ポイントを離れた所から見ていると、一見良く釣れているように見えるが、一人あたりの釣果はそれほどではない場合も少なくない。遠目に惑わされずに、状況を的確に見定める冷静さが必要だ。

釣れている人がたった一人だけで、他の釣り人たちは自分と同じように釣れていない場合は、その釣り人だけが特有の強みを持っていることになる。タナの設定、ハリスの銘柄や太さと長さ、刺餌または擬餌針の種類などが検討の対象になるが、直ぐ横で眺めてもなかなか秘密を見抜くことができないものだ。釣れている当の本人さえ、どうして自分が釣れるのか分からない場合が多い。そのような繊細さが、日本における釣りという趣味の奥の深さであり、面白いところでもある。

底狙いなら投入ポイントに依存している可能性もあるが、表層から中層での回遊魚が対象ならば、釣り座による差はほとんど無いと考えた方がよい。

周囲が釣れているのに自分一人だけが釣れない場合は、タナが合っていない可能性が高い。釣れている人にタナを聞いて同じ設定にしたつもりが、実はどちらかが勘違いしているかもしれない。タナが「ひとつ」と聞いて1ヒロに合わせたが、実は竿1本だったかもしれないのである。注意すべきは、カゴ釣りではウキからカゴまでの水深をタナと言うことである。潮の流れ具合にもよるが、ハリス長が3ヒロの人と1ヒロの人では、同じタナに合わせたつもりでも餌の位置は竿半分ほども違ってくる。

タナが合っていても明らかに釣果が劣る場合は、刺餌かコマセの鮮度が落ちているか、選択した餌が魚にとって魅力が無いか、仕掛けが魚に警戒心を与えているかである。どのような仕掛けでも多かれ少なかれマイナス要因は必ずあるが、このマイナス要因が一定の限界を超えてしまうと、魚は全く釣れなくなってしまう。「カゴ釣り入門」編の記述を参考にして、ぜひ釣果を伸ばしていただきたい。

 

・タナが対象魚に合っているか

・刺餌と擬餌針の使い分けは適切か

・投入ポイントが遠過ぎないか

・ハリスが太過ぎないか

・刺餌とコマセの鮮度は問題ないか

・投入ポイントが近過ぎないか

・ハリスが短過ぎないか

・擬似餌の色は適切か

・ウキ、カゴ、錘の色彩は適切か

・ハリスにヨレやチジレはないか

・刺餌/擬似餌のサイズは適切か

・仕掛けに尖ったものはないか

・ハリスが古くて曇っていないか

・刺餌の種類は適切か

・仕掛けに光るものはないか

 

 

■海水温度の周年変化

海水の温度は、潮の流れ、風の影響、河川からの雨水流入、深層水の浮上、陸上の気温、海水の蒸発などによって常に変動し、四季と共に変化する。各地の水温は、水産技術研究所などのホームページから入手することができる。

下図は伊豆・白浜海岸での海水温度の周年変化(1998年から2002年までの5年間平均値)で、各月を上旬(B)、中旬(M)、下旬(E)に分けてプロットしてある。水温は2月中旬から3月中旬にかけて最も低くなり、9月初旬から下旬にピークとなる。海水温度の季節変動は、陸上の気温よりも1ヶ月ほど遅れて推移していることになる。

 

 

 

このように海水温度は季節によって変化し、水温が低い時期は魚の群れも洋上を南方へ移動するので、一年中いつでもカゴ釣りで回遊魚を狙えるというわけではない。地域にもよるが、高いヒット率が期待できるのは水温が概ね18℃以上の季節に限定されている。しかし、狙いをアジ、マダイ、カワハギなど居付きの魚に向ければ、水温が低い季節でもカゴ釣りを楽しむことができる。また、寒い時期は次のシーズンに備えて釣具の研究や製作に励む時でもある。

 

■釣り上げた魚の処理

釣り上げた魚がフグなどの食べられない魚種だった場合には、丁寧に海へ戻さなくてはいけない。アイゴやゴンズイなど触るのが危険な魚の場合には、ハリスをできるだけ短く切って放流する。釣り針は海中で短期間のうちに酸化老廃するので、魚が生きられる可能性は十分に残されている。持ち帰らない魚だからといって、堤防に捨てるのは言語道断である。大自然の営みの中で、私たちは常に謙虚な振る舞いを心掛け、生命に敬意を払わなくてはいけない。

食する魚であれば、できるだけ新鮮な状態で家に持ち帰りたい。釣り上げた直後に血抜きを行い、内蔵を除去してクーラーボックスに入れる。クーラーには氷と共に適量の海水を入れて、魚の表面が乾燥するのを防ぐ。イワシなどの小魚は、ビニール袋にまとめて入れると扱いが便利である。魚が釣れている時間帯は、釣った魚の処理がつい面倒になってバケツなどの中に長い間置いておきがちだが、夏では魚の傷みも早いので出来るだけ短時間のうちにクーラーボックスへ入れるようにしたい。

 

■危険な魚

海には毒を持つ魚も居る。初心者が単独で釣行する場合には、事前に魚類図鑑などでよく調べて、危険な魚を頭に叩き込んでおく必要がある。そして、釣れた魚が自分の知らない魚種だったら、手で触る前に周りの人に素性を聞いた方がよい。

湘南のある堤防で釣りを見学していた時、内臓に猛毒を持つキタマクラを大切そうに手に持った釣り人から、「この魚は食べられますか」と聞かれたことがある。万一家に持ち帰って知らずに食べたら、大変なことになってしまう。

カゴ釣りで掛かる代表的な毒魚はアイゴ(左画像)とゴンズイ(主に夜釣り)であるが、この他にも触ると危険な魚は少なくない。キタマクラなどは小型なので油断しやすいが、針から外す時に指先を噛まれると痛い思いをする。特に夜釣りでは、釣り上げた魚の正体がわかるまでは不用意に手で触らないことである。

また、釣り上げた毒魚を堤防などに放置するのは非常に危険である。魚が死んでも毒は残るので、何も知らない子供などが触ると大変なことになってしまう。

 

■釣行後の反省と記録

釣りの技術を向上する秘訣は、釣れなかった時の反省である。魚がいなくて誰にも釣れなかった時はどうしようもないが、同じ釣り場に釣果の優れた釣り人が居た場合には、どうしてなのかという疑問を大切にして、自分の仕掛けや釣り方を反省してみることが大切である。

そして、反省点を含めた釣行の詳細データを記録することをお勧めする。気象、水温、潮汐、時間、タックル、餌、タナ、釣果、周囲の状況、反省点などの記録は、その後の釣行に大きな武器となる。釣行記録の形式として専用のツールも各種あるようだが、簡単なテキスト形式かExcelのようなものでも十分である。

魚が思い通りに釣れた時というのは、釣り人としての成長は期待できない。釣れなくて悔しい思いをした時こそ、技術向上のチャンスなのである。

 

 

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