実釣講座

 

釣り座の確保

 

■釣り場への到着

昨今の釣りブームから、釣り場は何処も釣り人で大賑わいである。夏から秋の回遊魚シーズンともなれば、潮通しのよい堤防など深夜から超満員の有様である。

複数での釣行では並んで釣り座を確保するのが難しい場合も有るが、強引な割り込みや、深夜から道具を置いて必要以上の場所を占有するような行為はマナー違反である。場所取りのために、堤防にロープを張るなどというのは言語道断である。賑わっている堤防に入る場合、釣り座の常識的な間隔というものがある。仲間内ならば少々狭くても我慢できるが、海に来てまで満員電車のような思いをしたくない。できれば竿1本ほど、少なくとも竿半分以上くらいの間隔はとりたいものだ。極端に狭い釣り座の間隔は、竿のぶつけ合いや人身事故発生の原因になる。込み合う堤防が苦手な人には、少々歩いても磯か海岸でのカゴ釣りをお勧めしたいが、それなりの気力と体力が要求される。

 

正規の駐車場ではない場所に車を置く場合には、漁業関係者や近隣の住民に迷惑をかけないよう慎重な判断が必要である。釣り人たちが疎んじられ、堤防への立ち入り禁止などの措置に追い込まれる2大原因は、身勝手な車の駐車とゴミの置き捨てである。釣り場が駐車場から離れている所では、車上荒らしよる被害も少なくない。車外から見える位置には貴重品などを決して置かないよう心がけたい。

貴重品や携帯電話などを身につけるには、ファスナーなどでポケットを閉じることのできるベストの着用が望ましい。バケツで海水を汲み上げる時など海を見下ろす姿勢になるが、この時に胸ポケット内の財布や携帯を海に落とす恐れがあるからだ。

堤防や海辺の近くに駐車する場合には、満潮時の水位上昇に注意が必要である。カゴ釣りで有名な静岡県沼津市の大堤防では、大潮の満潮時に堤防わきに駐車していた車がエンジンまで水没し何台もが廃車になっている。

 

■釣り座の選定

慣れない釣り場を訪れたとき、何処に釣り座を構えるかはなかなか難しい判断である。回遊魚狙いの場合、魚の通り道は必ずしも堤防の先端寄りというわけではなく、潮の流れ、水深、海底の地形などに依存している。

カゴ釣りでは遠投が可能なことから、同じ堤防での釣り座の違いによる釣果の差は本来それほど大きいものではない。「あそこが釣れる」という話が伝わると、そこに釣り人が集まる。すると、その場所にコマセが集中するので、ますます釣れるようになる。釣れるポイントというのは、多くの場合このような経緯によるものと思われる。

どこの釣り場にも、地元の釣り人たちが好んで座を占める場所というものがある。不慣れな釣り場では、込み合っている場所を避けて周囲を観察しながら、のんびり釣りを楽しんだ方が得策のように思う。

 

マダイやシマアジなど底狙いの場合には、釣り座の選定が釣果に決定的な影響を与える。海底に根の無い平坦な砂浜では、底狙いで釣果をあげるのは難しい。しかし、沖目から堤防のヘチ近くまでを丹念に探れば、大抵どこかに釣れるポイントが存在するものだ。常連の釣り人たちから見放された釣り座でも、仕掛けを工夫し投入ポイントやタナを探る事によって、周囲の人々が驚くほどの釣果が得られる場合もある。そのような挑戦が、釣り人としての心を満たす本来の釣りであるように思われる。

 

釣り座の選定で注意すべきは、波の這い上がりである。いわゆる「与太波」と称せられる高い波は、地形や風向で波同士が干渉し合い、数百回に一度の確率で発生する。普段はいたって平穏な海辺に、突然信じられないような波高が押し寄せるのである。磯場が複雑に入り組んでいる小田原市の早川から根府川あたりが好例であり、毎年のように釣り人の命が失われている。高波が来た場合、堤防では反対側の海へ押し流され、切り立った磯では返す波で前面へさらわれる。万一に備えてライフジャケットの着用が望ましいが、夏場の堤防や地磯ではなかなか思うにまかせない。

釣り座を選定する時には、高波が来た場合のことを考慮していただきたい。そして、海側には決して背を向けないことである。高波の来襲をあらかじめ知って身構えるのと、突然背後から襲われるのでは、結果が大きく違ってくる。また、立ち上がる際に思わずよろめいた場合、海側に背を向けていると海に落ちる危険がある。

 

釣り座が決まったら、近くの釣り人と親しく挨拶を交わし、常に礼儀正しく接するよう心掛けたい。見知らぬ釣り人同士が隣り合って無言のまま釣りに励んでいると、どうしても競争心を持ってしまいがちである。親しく挨拶や言葉を交わせば、そうした感情から抜け出すことができる。

 

■荷物の整理

釣り座が決まったら、荷物を手際よく整理整頓する。後ろを通り過ぎる人の邪魔にならず、竿を振ったり魚を取り込んだりするのに便利なレイアウトにする。風の強い日には、道具類が飛ばされないように注意が必要である。バケツには直ぐに海水を入れて重くし、刺餌が溶けていなかったらバケツに入れて溶けるのを早める。

堤防のコンクリートに竿やリールを直接置くと、どうしても傷がつきやすい。竿やリールの下に海水を含ませたスポンジかタオルを敷くと、この問題が解消される。クーラーボックスに竿掛けのアタッチメントを取り付ける方法もある。堤防にピトンを打ち込むのはルール違反であり、器物損壊にあたる。

釣り場にゴミやタバコの吸い殻などは絶対に放置してはならない。クーラーボックスもしくは道具箱にビニール袋を縛り付けてゴミ箱とし、撤収の際に持ち帰るのが鉄則である。釣りを始める前に周囲を見回して、ゴミや釣り糸などが放置されていたらゴミ箱に片付けて、気持ち良い釣り場環境を作るように心掛ける。

 

堤防などで人通りのある場所に伸ばしたままの竿を置く釣り人が居るが、これはルール違反である。特に夜の堤防などでは、通行人に誤って踏まれる可能性がある。竿の穂先側は必ず海に突き出す方向に置き、竿尻が通路にまではみ出さないよう心がけたい。

最近は釣りを始めたばかりの人でもカッコイイ服装で高価な道具を持っていたりするので、釣り人を見ただけでは初心者かどうかの判断がつきにくい。一番わかるのは、荷物のまとめ方である。ベテランは荷物を決してバラバラに散らかさず、奇麗にまとめているからだ。

 

健康と安全への配慮

釣り場の天候や波の高さは、必ずしも予報どおりに推移するとは限らない。決して無理はせず、危険を感じたら直ちに撤収作業を開始するべきである。安全な場所まで戻るのに時間を要する磯場や長大な堤防などでは、速やかな決断が命を守ることになる。

夏場の釣りでは、灼熱地獄との闘いになる。近くで飲料水を補給することができない釣り場では、あらかじめ2リットルは用意しておきたい。半袖・半ズボンはあまり感心しないが、肌がむき出しになる部分にはUVクリームをまんべんなく塗る。陽光が強ければ偏光グラスをかけて、太陽光の海面反射から目を保護することも忘れてはならない。

 

風や波に比べて、雨はそれほど気にする必要はないが、雨具の性能には日ごろから注意が必要である。購入当初は撥水性の優れた雨具でも、何回か使用しているうちに表面の撥水機能が劣化して雨が沁み込んでくる。真夏であっても、体が雨に濡れたら寒くて我慢できるものではない。雨具は少しずつ劣化が進む消耗品だということを忘れてはならない。また、洗濯機などにかけると表面の防水加工が一気に劣化する。

撥水機能を回復させるためにフッ素系スプレーが売られているが、比較的高価である。シリコン系スプレーを用いれば非常に安価であり撥水効果も優れているが、通気性が失われるという欠点がある。

危険なのは雷である。釣り竿の素材であるカーボン樹脂は導電性であることから、竿を立てた時に落雷の危険がある。落雷の本流に打たれたら黒焦げになって即死だが、多くの場合は支流に打たれてのショック死である。地表近くでは、枝分かれした落雷電流が広範囲に降り注いでいる。雷が近付いたら竿を休めて地面にうずくまるか、早めに車の中へ避難する。

 

日本は地震国である。いつなんどき、海底地震が起きて津波が押し寄せるかもしれない。貴重品は身につけていて、いざとなったら直ちに逃げられるようにしておく。携帯ラジオを持っていて、地震を感じたらすぐに津波速報を聴くようにしたい。万一海辺のサイレンが鳴ったら、どのように行動するか、常に心の準備をしておくべきである。サイレンの鳴り方は、津波注意報、津波警報、大津波警報と3種類に分かれているから、日ごろから正しい知識を身に付けておきたい。

 

2011年3月7日に発生した東北太平洋沖大地震では、予想を越えた大津波が沿岸を襲い、多くの尊い人命が失われた。

この大地震による余震は、今後長期にわたって続くと予想されている。また、余震の震源地は東北や北関東沖だけに限定されたものではなく、日本の広い地域で発生する可能性がある。津波注意報や警報は必ずしも的中するものではないが、もし本当に津波がくれば命はないわけだから、速やかな退避行動だけが自分自身を守ることになる。津波のスピードは非常に速く、水深のある沖合いでは時速700~800kmとジェット機並みである。津波が見えてから逃げるのでは間に合わない。

近い将来、南海または東南海地震の発生が予測されている。この地震が起きた場合、場所によっては地震から数分で津波が到来し、その高さは計算上の最悪値で20m以上である。強い揺れを感じたら、体一つで一目散に逃げることだ。

 

自分自身の健康と安全に留意するのは当然だが、釣り場で他人に危害を与えるようなことが有ってはならない。最も危険なのは、竿を振る瞬間である。後ろを十分に確認しないまま竿を振ると、通りがかりの人に針や錘をぶつけて怪我をさせてしまう。投入の構えに入る前に必ず周囲の状況を確認し、竿先を目で追いながら構えの姿勢に入る。もし後方に突然人が来ても、竿を移動する途中で気が付いて安全を確保することができるからだ。

込み合っている堤防で、海岸での投げ釣りに用いられる回転投法を行う釣り人が時々いるが、これは周囲の釣り人に対して非常に危険である。竿は正しく構え、狙った方向に真っ直ぐ振り下ろしていただきたい。

 

 

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