カゴ釣り専科

水中における光の減衰と色彩

 

 

我々の目に見える色のついた物体というのは、その物体自身が固有の光を発しているわけではない。光源からの光が物体にあたって、そこから反射してくる光を見ているのである。物体が全ての光を吸収してしまえば黒く見えるし、特定の色だけを吸収するのであれば、吸収されなかった色だけが反射して、その反射光が色彩として目に見えるのである。また、光源となる光の色が変われば、物体の色もまた違って見えてくる。

地上に降り注ぐ太陽光には光の三原色であるRGB(赤・緑・青)が均等に含まれていて、無色透明である。太陽光に照らされた物体が赤色に見えるとすれば、その物体には緑色と青色を吸収する性質があり、赤色だけが反射してくるから赤く見えるのである。

 

しかし、水中ではRGBそれぞれに対して色の吸収率が異なるため、水深によって物体の色が地上とは違って見えてくる。下図は水中でRBGそれぞれが吸収されて減衰する割合を示すもので、この特性は真水でも海水でも殆ど変わらないとされている。

 

 

 

図からわかるように、波長の長い赤色は水深1ヒロ(1.5m)程度で光量が半減するのに対して、波長の短い緑色や青色は竿3本半ほどでようやく光量が半減する。従って、赤色に近いピンク色や橙色の物体は、よほど水深が浅くないかぎり緑色と青色の光源に照らされて黒色として見えることになる。

大気中で目に見える物体の色が、水深が深くなるにつれてどのように変化するかを画像として表すと、概ね次のようになる。

 

水深0m(大気中)

 

水深2.5m

 

水深5m

 

 

水深が竿1本(5m)ほどになると、赤色成分は水に吸収されて殆ど存在しなくなり、緑と青の光だけとなる。それ以上深くなっても色調にそれほど変化はなく、光が次第に届かなくなるので全体的に暗くなってゆく。コマセカゴなど海中へ投入する物体を海の色と似た色にすれば、周囲に溶け込んであまり目立たなくなる。

 

しかし一方で、魚の多くは色を判別する能力を持たないことが知られている。それを考慮すれば、釣具や仕掛けの色調そのものにこだわるよりも、物体の明るさ(彩度)や表面の光沢などをより重視するべきと言える。

魚は視力が非常に弱い生物であるが、それは物体の形を正確にとらえる能力、すなわち物体を見たときの解像度が悪いということであって、光に対する認識能力が劣っているわけでは決してない。なぜならば、太陽光の殆ど届かない深海においても、多くの魚たちは目で獲物を見つけ出し、活発に捕食しているからである。その事実から考えると、魚の光に対する認識能力は人間などに比べて非常に高いと言える。物体の色や形状を正確に把握することができなくても、その物体が発する光や反射光に対しては高い感度で反応すると考えるべきなのだ。

このことから、カゴや天秤の塗装を行うとすれば、暗い色調の艶消し塗料を使用したほうが得策である。クッションゴムやハリスの目立ちにくさも、光の屈折率や表面の光沢に大きく依存する。

魚は目が悪いからハリスの太さは問題にならないという説があるが、晴れた日の浅タナでは太いハリスはプリズム効果によって外周部が七色に輝くから釣果の点では不利になる。透明のクッションゴムも同様にプリズム効果があるから、光を通さず表面に光沢のない銘柄が有利である。

太陽の入射角が低い晩秋の釣りでは道糸の色彩も問題となり、視認性の良い蛍光色は魚にとっても目立ちやすい存在である。ただ、道糸の色を決める場合に忘れてはならないのが、フグの存在である。透明や白色の道糸はフグの興味を引き付けるため、道糸を食いちぎられてウキやカゴなど全てを失うことになりかねない。

 

水中における光の性質や魚の生態を理解して、効果的な疑似針や道具の色を考えるのは興味深いことだ。しかし、そのようなことが知識としてわかっても、それで釣果が保証されるというものではない。サビキの色を例にとってみても、魚が良く釣れる色は季節や場所や天候や時間によって変わってくる。初夏は緑色のサビキが好調だったのに、秋になったらピンク色のほうが良くなったとか、相模湾と駿河湾では良く釣れるサビキの色が違ったりするというのは、実釣でしばしば経験することである。

その時々の潮の流れ、太陽光の照射具合、餌となる小魚やプランクトンの分布、海中に溶け込んだ濁り成分などの影響で、海況は日々刻々変化している。そこがまた、釣りという趣味の奥が深いところであり、面白いところでもある。

サビキ多点針やバケ1本針を使って釣りをする場合、その時々で何色がベストかを知るには、実際に釣り場で色を変えて試してみるしかない。このような試験に使う疑似針は、多彩な色が市販されているウイリーを用いて自作するのが効率的である。ウイリーは針に巻きつけて瞬間接着剤で止めればよいが、これにはゼリータイプの瞬間接着剤でウイリー表面だけを固めるのがコツである。液状タイプの接着剤ではウイリーを貫通して針まで浸透するため、針をリサイクルし難いからである。

 

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