カゴ釣り入門

 

刺餌・擬似餌とコマセ

 

どの釣法においても、魚に最も近い位置にあるのが餌であり、それだけに釣果に直接的な影響を与える。いかに優れた道具や仕掛けを使用しても、それらは単に餌を魚に送り届ける手段として用いられるに過ぎない。最終的には、魚が餌を捕食して始めて、釣果という形に結びつくのである。

周囲に比べて釣果が思わしくない場合、まっさきに疑うべきはタナであるが、その次は餌とコマセである。

 

■刺餌用オキアミ

カゴ釣りで一般的に使用される刺餌はオキアミである。オキアミは姿が海老に似ている甲殻類だが、海老とは種を異にし、生態はプランクトン的である。主に漁獲されるのは三陸沖と南極海であり、魚だけではなくクジラなどにとってもはかけがえのないタンパク源である。傷みが早く、独特の匂いがあるため人間の食料としては適さないが、養殖の餌や釣り餌として利用される。価格が安くて扱いやすく、魚の食い込みも良好であることから、釣りの万能的な刺餌として普及した。

釣果をあげるには、新鮮で美味しそうなオキアミを魚に提供することであり、以下に重要なポイントを説明する。

 

【鮮度】

小魚などの活餌を常食としている回遊魚を狙うには、餌の鮮度が勝敗の分かれ目となる。洋上で捕獲されたオキアミは、船上で食用材などにより保存処理された後で冷凍される。新鮮なオキアミとは、船上で冷凍されたオキアミを初めて解凍した状態である。

メジナ釣りなどには大手メーカー製の各種加工オキアミが市販されているが、加工する過程で鮮度が落ちている上に、表面に人工的な皮膜が施されているため回遊魚狙いには適さない。わざわざ高いお金を払って加工オキアミを購入しても、多くの場合かえって釣果を落とすことになる。釣具店などでは、刺餌用としてサイズの揃ったオキアミを選別して自家製パックとして販売しているが、これも解凍・再冷凍しているので鮮度が落ちている。

しかし、最近の実験では、メジナ用の加工オキアミが圧倒的な強みを発揮する場合のあることが分かった。よく晴れて陽光が強く、太陽光線の入射角度が高い初夏では、新鮮なオキアミよりも加工オキアミの方が釣果の優れることがある。これは、加工オキアミの赤みがかった色と光沢に関係がありそうだ。このような海況で加工オキアミに対抗するには、ピンクないし赤系の擬似餌が適している。

 

最も鮮度の良いオキアミは、解凍経歴の無いブロック状のものである。自宅冷蔵庫の冷凍室が使えるのであれば、3kgブロックを購入しノコギリで8分割して冷凍保管するのが最も経済的な方法である。分割したブロック1個のコストは100円程度であり、2名で丸1日釣りを楽しめる分量である。

冷凍ブロックや氷ブロックなどをカットするのに使うノコギリは100円ショップやホームセンターなどで購入するが、できるだけ歯が大きく歯並びの粗いものを選択するのがコツである。木工用などに使用する歯並びの細かいノコギリでは、歯の間に切りかすがたまって切れ味が悪く、カットに多大な労力を要することになる。

 

夏場の釣行では、オキアミの管理に注意が必要だ。オキアミはクーラーボックスに入れて、最小限の量を餌箱に小出しにしながら使用する。オキアミは温度と日光に弱く、劣化すると頭の部分が変色して身が柔らかくなり、透明度が失われる。

釣行に持参したオキアミが余ると、勿体無いので次回の釣行に使いたいと思うが、よほど鮮度が良い場合を除いて止めた方がよさそうだ。変色がなく解凍直後と変わらないように見えても、これを再冷凍・再解凍して回遊魚狙いに再使用すると、釣果が落ちてしまうことが多い。人間の目ではわからなくても、オキアミの透明度や発光具合を魚はたやすく見抜くようだ。余ったオキアミは冷凍して、次回釣行でコマセとして使用できる。

 

【サイズ】

市販されているオキアミは、M、L、LLなどとサイズ毎に分類され販売されている。魚の食い込みが良いサイズがあるが、これは対象魚、季節、海水温度などによって変わってくる。一般的にはMサイズが良好だが、魚の活性が高い夏から秋は大きめのLサイズが有利な傾向がある。食い渋り時期には、小さな針に小さなオキアミを刺した方が釣果は上がる。

オキアミのサイズは、釣り人が考えている以上に釣果に大きく影響する。Lサイズが好まれる時にMサイズを使用すると、全く食い込まないという事態も起こり得る。何種類ものサイズを釣り場に持参するのは不経済なので、海況に応じてMサイズを2匹房掛けにするとか、Lサイズの頭か尾の部分を切り取って使用するなどの工夫が求められる。オキアミ2匹を房掛けにすると形が不自然になるが、これが釣果を落とす要因にはならない。

オキアミは食糧事情によって体が大きくなったり小さくなったりするという、特殊な生態を有している。餌となるプランクトンが少ない冬季には、体が収縮するのである。釣具店で販売されているオキアミも、同じサイズ表示であっても捕獲された季節によって大きさが異なる傾向にある。

 

【色】

オキアミの色には白系と赤系がある。この違いはオキアミが捕獲された季節によるもので、種そのものの違いではない。一般に白系が刺餌として使用され、赤系はコマセ用として販売されている。擬似餌についても言える事だが、朝夕の光が弱い時間帯には白系が圧倒的に有利である。陽の強い夏場の日中では赤系の方が好まれる傾向にあるが、一般に白系は魚の餌として万能性がある。

 

【匂い】

魚は嗅覚の鋭い生物である。保管している間や針に刺す過程で、オキアミに異臭がつくと食い込みが悪くなるようだ。鮮度の悪いオキアミに食い込みが悪いのは、魚の視覚によるものだけではなく、嗅覚での忌避行動も伴うように思われる。

 

■身餌

カゴ釣りの刺餌として最も一般的に使用されるのはオキアミであるが、対象魚や海況によっては身餌の方が有利な場合も少なくない。身餌として使われるのは、キビナゴ、イワシ、サバやサンマの短冊、イカの短冊などである。

餌盗りの小魚が多い場合や、狙いが太刀魚やカマスなどフィッシュイーターの場合は、オキアミよりも身餌の方が断然有利である。回遊魚狙いでも、海況によってオキアミでは食わないが身餌なら食うという場合もある。どのような餌を使うかの判断はなかなか難しく、釣り人の直感や経験がものをいうところであるが、釣れないときにはオキアミだけにとらわれないで身餌や擬似餌など色々試してみるべきだ。

 

■擬似餌

擬餌餌は魚の食い気を起させるように作られた騙しの人工餌である。代表的な擬似餌はサビキ仕掛けとして知られる多点針だが、その他にも土佐カブラ、アジカブラ、バケなどと称されて市販品も豊富である。素材としてサバ皮、ハゲ皮、ナマズ皮、スキンゴム、ウイリー、フィルム樹脂などがあり、これらの素材をカットして針に取り付けたものと、白、赤、緑、青、オーロラなどに着色したものとがある。

下の画像は左からウイリー(グリーン、フラッシャー付き)、カブラ(ハゲ皮ピンク、フラッシャー付き)、カブラ(ハゲ皮オーロラ、フラッシャー付き)、カブラ(ハゲ皮グリーン)、カブラ(ハゲ皮白)である。これらは市販品を購入してもよいが、釣具屋で材料を求めれば自作することができる。

 

 

 

【擬似餌の色】

擬似餌を使う場合、色の選択が釣果に大きな影響を与える。どの色が有利かは、対象魚、時間帯、気象、海況などによって刻一刻と変化する。幹糸に5色のウイリー多点針を付けた自作仕掛けでゴマサバを相手に実験したところ、晴れた日でも太陽に雲がかかった時には魚の好むバケ色が変わるという結果を得た。この変化に追随するために考案されたのが、下田バケと言われる3色混合多点針方式である。

一般的には朝夕の光が弱い時間帯は白系が有利で、陽が高くなると緑やピンクが好まれる傾向がある。フラッシャー付きで大き目のバケが食い込みの良い時もあるが、小さな羽根だけの方が良い場合もあって、なかなか一概には言えないのがバケの選択である。

 

 

 

前述のように、バケを使用する場合は色の選択が重要であり、その事実は実釣で頻繁に経験する。従前の説ではカツオなど回遊魚の多くは色覚能力を持たないとされてきたが、最近の分子生物学的な研究によれば、殆どの魚が優れた色覚能力を有していることが明らかになった。

魚は視力の弱い生物だと言われるが、それは目から入ってくる光の分解能(物体の形を詳細に認識する能力)が劣っているということであり、受光能力、色覚能力、コントラスト認識などは非常に優れていると考えられる。その証拠に、太陽光が殆ど届かない深海においても、魚はあの大きな目から入ってくる僅かな光で餌を捕食しているのである。魚は哺乳類よりもずっと長い進化の歴史の中で、様々な能力を獲得してきたに違いない。

 

【刺餌か擬似餌か】

刺餌は本物の餌であるから、擬似餌よりも常に有利だと考えるのは間違いである。餌となる小魚が豊富な海況では死んだオキアミなど相手にされず、小魚と間違えて擬似餌しか食わないという場合も少なくない。釣行の際には、刺餌だけでなく何種類かの擬餌針も用意したい。

カゴ釣りでは、ハリスの先端に刺餌を付け、ハリスの途中から擬餌針の枝を出す方法もとられている。この仕掛けは釣り人を迷いや不安から解放し、釣果の点からも有利ではあるが、吹き流し方式になるため投入時に仕掛けが絡みやすくなる。また、枝スの接続によってハリス強度が大幅に低下するという欠点がある。

 

■その他の刺餌

カゴ釣りで一般的に用いられるオキアミ、身餌、バケ以外にも、身近な食材から魚に好まれそうな刺餌を見出すことができる。魚ソーセージ、ちくわ、練り団子など海況によっては定番刺餌よりも釣果が優れる場合もあるから、いろいろ試してみるのも興味深いものだ。

スーパーの食品売り場を冷やかしていると、小エビのむき身、桜エビ、白エビ、甘エビ、ホタルイカなど魚が好みそうな食材が多数あることに気付く。富山湾の白エビなど人間様でも高価で食べられないので魚の餌には少々贅沢過ぎるが、色々な食材を家の冷蔵庫からこっそりくすねて、カゴ釣りの餌として試してみるのも遊び心があって面白い。また、ソフトルアーに用いられる合成樹脂の擬似餌もカゴ釣りに流用できる。

 

■夜釣りの餌

オキアミは刺餌として夜釣りでも使用できるが、近場に投入するアジ狙いなどでは餌盗りに弱いのが欠点である。オキアミに代わるものとして、新鮮なイカの短冊が効果的である。太刀魚、ムツ、カマスなどには、サンマやサバなどの身が適している。これら身餌は釣具屋で加工品を買うこともできるが、魚屋で鮮魚を買って自作すれば経済的だ。キビナゴは食い込みの良い餌だが、身が柔らかいので盗られやすいのが弱点だ。

夜釣りで使用する擬似餌は、日中とは異なるタイプが必要である。少ない光量でも魚に見えるようなオーロラ系、夜光系、蛍光系、純白ウイリーなどが適しているが、季節や釣り場などによって最適なものが違ってくる。特にアジ釣りでは、海況、月明かり、群れの違いなどによって好まれる餌が違ってくるので、釣り初めには各種疑似餌を取り付けた多点針で様子を探るとよい。海水温度が低い初冬のアジ釣りでは餌盗りも少なくなっているので、オキアミ刺餌が有利である。

 

夜釣りでは集魚灯が使われる。コマセカゴの近くに小さな発光源(25mmのケミホタル®、極小電気ウキなど)を装着することにより、コマセが切れた状態でも魚を集めることができる。魚種によって好まれる光の色が異なると言われるが、電気ウキの色との関係もあって検証はなかなか難しい。赤色光は水中ですぐに減衰するため仕掛けの近傍にしか届かないから、青色、緑色、白色などの方が効果的である。

 

■コマセ

沖釣りでは魚群探知機で魚のいる場所を探し出し、そこへ仕掛けを投入するが、陸地からのカゴ釣りでは仕掛けが投入された場所へ魚が廻って来なければ釣果は望めない。広い海を泳いでいる魚が、たまたま投入した餌と遭遇する確率は決して高いものではない。そこで、コマセをカゴに入れて遠投する「カゴ釣り」が登場したわけである。

一般的なカゴ釣りでのコマセとしては、オキアミよりもアミエビの方が効果的である。魚の嗅覚は非常に優れていて、人間の数万倍と言われている。アミエビは潮に乗って海中に広く散らばり、匂いも強いので集魚効果が優れている。サビキ仕掛けなどの擬似餌を使用する場合には、アミコマセの煙幕が不可欠である。

 

オキアミを刺餌として大型回遊魚を狙う場合には、小さく砕いたオキアミをアミエビと混合して使われるが、実験によれば砕いたオキアミよりもMサイズのオキアミを原型のままアミエビと混合した方が有利だった。

オキアミは魚に消化不良を起こさせるので、コマセとして大量に使うのは自然保護の視点から望ましくないと言われている。沖釣りでは、オキアミをコマセとして使うのを禁止している地方もある。

 

少々鮮度の落ちたアミコマセでも釣果には影響しないと言われているが、最近の実験では異なる結果が出た。夏場の釣行で残ったアミエビを再冷凍・再解凍したものは、独特の異臭を伴っている。このような古いアミコマセを使用すると、新鮮なものに比べて大幅に釣果が落ちるのである。古いアミコマセの腐臭は人間にとっても気持のよいものではないが、魚を寄せるどころか、かえって寄せ付けなくするようだ。刺餌と同様に、アミコマセも新鮮なものを使用しないと釣果は伸びない。

このように考えると、アミコマセも刺餌と同様にクーラーボックスから小出しにして使った方が得策と言える。アミコマセの小さなブロックを購入するのは経済的ではないので、大きいブロックをノコギリで1kg程度に分割してビニール袋に分け、1個ずつ出して使う方法をお勧めする。

朝方は食い込みが良かったのに、午後になるとめっきり釣れなくなったという経験は誰にでもある。午後には魚があまり接岸しなくなるのは事実だが、原因はそれだけではなく、刺餌やコマセの鮮度劣化も見逃せない要因なのである。

昼間の釣りから引き続いて夜釣りを行う場合には、アミコマセの管理に特別の注意が必要だ。新鮮なアミエビでないと発光しないので、鮮度を落としてしまったら集魚効果が大幅に失われる。

 

ウキフカセ釣りでは、コマセに集魚材を配合するのが普通である。沖釣り用としても、マダイや青物用の集魚材が市販されている。このような集魚材をカゴ釣りに応用して釣果が伸びるかどうかは、釣り場の状況に依存する。

集魚材はその名のとおり、魚を呼び集める役割をする。ところが、集まって来る魚は本命だけではなく、当然ながら餌盗りの小魚たちも寄って来る。繊細なコマセワークを駆使できるフカセ釣りとは異なり、カゴ釣りは餌盗りに極めて弱い。集魚材を使用するかどうかは、餌盗りの状況によって判断することになる。

アミエビに集魚材を配合すると、夏場でも変色が軽減される。また、冷凍ブロックが溶解するとアミエビのエキスを含んだ水分が流れ出してくるが、これが集魚剤に吸収されるのでコマセ効果を効率よく利用できる。投入の際に、コマセカゴの中から水分が周囲に飛散するという問題もなくなる。

 

コマセを大量に使用する必要はない。少ない量のコマセを頻繁に打ち返すのが、釣果を伸ばすコツである。昔と違って、魚の大きな群れが接岸するのは稀である。最盛期でも大勢の釣り人の竿がいっせいに曲がるのは珍しいことで、たいていは釣り場の一人か二人だけにぽつぽつとアタリがでるだけだ。このように魚が少ない状況で大量のコマセを撒けば、せっかく自分の仕掛けに寄って来た魚はコマセだけで満腹してしまい、不自然な刺餌など食べようとしない。また、過度のコマセ撒きは海の汚染にも繋がりかねない。

 

 

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