カゴ釣り入門

 

カゴ釣りの竿とリール

 

釣り道具の中でも、竿とリールは特に値の張る部分であり、釣り人たちの興味の対象となるものだ。魚を釣るにはどうしたらよいかという基本的な技術論の前に、どういう竿やリールが良いとか、どの竿とリールが遠投に向いているとか、釣りそのものよりも道具に関する談義にお目にかかるのも珍しくない。

釣り人の手元にある竿やリールは海中の魚とは全く無縁の存在であり、釣果とそれほど直接的に結び付くものではない。これらの特性、扱い方、メンテナンスなどを良く知って、自分の釣りに合った経済的な道具を揃えるのが、釣りを長く楽しむうえで大切なことである。

 

■釣り竿 

〔竿の種類と号数〕

陸からの海釣りに使われる竿には、ヘチ竿、投げ竿、磯竿、遠投磯竿など各種がある。カゴ釣りに使用される一般的な竿は遠投磯竿3号から5号であるが、最初の1本を購入するならば遠投磯竿4号を推奨したい。3号竿は軽くて使いやすいが、大物を強引に抜き上げると折れる場合がある。5号竿は腰が強くて遠投には向いているが、重量があるのでやや扱いにくい。その点、4号竿には比較的万能性があり、初心者から上級者まで安心して使うことができる。

竿の長さは4.5mや6.3mもあるが、標準の5.2m~5.3mが使いやすい。短い竿は軽くて扱いやすいが、ハリスを長くした場合に魚を抜きあげるのが難しくなる。長い竿はテトラや磯で魚を取り込むのは便利だが、風が強いと扱いにくく、重量があるので竿さばきが難しい。また、必ずしも長い竿ほど遠投が有利というわけではない。

 

    

 

遠投磯竿にはスピニングリール用と両軸リール用があるので、購入時には注意が必要である。スピニングリールと組み合わせる4号竿ならば4-530PTS(画像の上)、両軸リールとの組み合わせならば4-530RP(画像の下)となる。両者の相違は投入時の竿の持ち方と道糸放出時の軌道の違いからくるもので、リールシート位置、ガイド形状、ガイド数が異なっている。

スピニング仕様の竿で両軸リールを使用した場合、竿を振り込む時にやや違和感があるが、それほど大きな問題ではない。両軸仕様の竿とスピニングリールの組み合わせでは、両手のグリップ間隔が狭くて腕力を活かせず、道糸とガイドの接触抵抗が大きいので遠投が不利になる。1本の竿でスピニングリールと両軸リールを併用する場合には、スピニング仕様の竿を選択することになる。

 

本来、磯竿の号数というのは組み合わせるハリスの適合号数を表している。しかし、カゴ釣りの場合にはハリス号数には捉われず、コマセを含めた竿の負荷重量を目安として竿を選択する。一般的な磯竿4号の仕様では適合負荷錘が10号から15号であるから、負荷重量として40gから60g程度が推奨される。コマセの重さを考慮に入れると、10号程度の錘を付けた場合が竿の弾力性を最も効率よく引き出せることになる。しかしながら、竿の公称号数ほどあてにならないものはない。同じメーカーの同じ号数でも、銘柄によって竿の硬さや弾力性には大きな違いが有り、購入の際には実際に竿を振って感触を掴む必要がある。

 

〔外ガイド竿と中通し竿〕

外ガイド竿の最大の弱点は、向かい風などで穂先に道糸が絡みやすいことである。柔らかなPEラインを使用した場合には、この問題はさらに深刻なものとなる。夜釣りなどで絡んでいるのに気付かず投げると、竿の穂先が折れてしまう。

これを根本的に解決するのが、道糸を竿の内部に通す「中通し竿」である。穂先破損の危険が無く、扱いやすいので、初心者にも適している。組み立てる時にガイドを揃える必要がないので、家でリールと道糸を装着していけば、夜釣りでも竿を伸ばすのが簡単だ。遠投性や自重の点でも、外ガイド竿に劣らないものが市販されている。

中通し竿の欠点は、道糸を通す時に専用ワイヤが必要なこと、ウキ止め糸がズレやすいこと、釣行後に竿を分解して内部まで真水で洗浄しなくてはならないことである。

ところで、頻繁に分解されることを前提に竿を設計したのであれば、竿尻キャップを回しやすい形状にするはずであるが、市販品は必ずしもそうなっていない。設計者は内部まで洗浄する必要が無いと考えているのか、回しやすさまで考慮することが出来ていないのか、その辺は定かでない。

新品の道糸や安価な道糸を使用すると、竿内部に道糸表面のカスが溜まって道糸の出が悪くなると言われるが、フカセ竿と違って内径の大きい遠投磯竿では特に気にすることはなさそうである。ただ、新しい道糸をリールに巻き込む時には、湿らせたタオルで掴みながら巻いた方が無難である。中通し竿にPEラインを使用する場合には、表面が滑らかな「中通し対応」の銘柄を選択する必要がある。

 

中通し竿の最大の問題は、何と言っても価格である。カゴ釣り用の4号竿を購入する場合、外ガイド竿ならば実売価格が数千円の入門用でも十分実用に堪えられるが、中通し竿の場合にはより高額になる。しかし、カゴ釣りを本格的に続けるつもりであれば、すぐに限界を感じる安い竿を購入するよりも、破損の危険が少ない中通し竿を購入した方が長い目で見れば得策であることは間違いない。

 

〔竿の性能〕

カゴ釣りの竿で重要な遠投性能は、腰の強い硬い竿の方が有利である。しかし、硬ければ硬いほど遠投に有利かというと、そうではない。振り下ろした時に竿がほどよく湾曲し、ためこんだ弾性エネルギーを効率よく放出して、仕掛けを飛ばす運動エネルギーに変換するのが竿の役割だからだ。硬さだけを追求するのであれば、例えば弾力性の無い金属棒がこれにあたる。仮に金属棒で竿を作り、仕掛けを投げたら遠投できるだろうか?

答えはNOである。

物体を遠投するには発射角45度が最適条件であるが、弾力性の無い金属棒でこの発射角を実現するには、真後ろ180度で竿を構え、振り始めて135度まで来た時に道糸を離すことになる。釣り人がエネルギーを与えることができるのは、後方たったの45度分だけであり、これでは腕力を竿に十分伝えることはできない。

この問題を解決するために、弾力性のある竿を使用するわけである。竿を大きく振って腕力エネルギーをいったん竿の弾性エネルギーとして溜め込み、それを開放して仕掛けを飛ばす運動エネルギーに変換するのである。人体から供給されたエネルギーは、最終的に仕掛けが飛ぶ運動エネルギーに変換される過程で半分ほど無駄に消費されるが、それでも金属棒で投げるのよりもずっと強力である。

竿の遠投性能を最大に引き出すには、真後ろ180度から前方へ振り込んで、竿元角度が垂直~前方45度あたりになった時に竿の先端が発射角45度になるように錘負荷を設定することである。また、竿の硬さと腕力とのバランスも大切である。

 

釣り竿に要求される性能は、投げる能力だけではなく、針掛かりした魚を寄せて釣り上げるしなやかさも重要である。硬すぎる竿はハリス切れの原因となり、結果として太いハリスを使用することになって釣果が落ちてしまう。投げるための腰の強さと、釣り上げるための柔軟性という、ほどよい性能バランスが要求される。

 

ところで、遠投の老舗といえば投げ釣りである。冬場のシロキス釣りなどでは、4色(100m)以上の遠投は常識である。このように超遠投が要求される「投げ竿」は長さが4m~4.5mであり、カゴ釣りに使用される遠投磯竿よりもひとまわり短くなっている。投げ釣りでは錘負荷が25号~30号と重いため、通常の腕力で効率の良い発射角度を実現するには短い竿の方が有利だからである。その代わり、竿先からの道糸の垂らしを長くして遠心力を大きくし、仕掛けの放出スピードを速くしている。

このことからも、「長い竿ほど遠くへ飛ぶ」という論理は単純には成り立たないことがわかる。遠投性能には、竿の弾力性、竿の長さ、竿の重さ、竿の空気抵抗、仕掛けの総重量、仕掛けの空気抵抗、リールの放出抵抗、道糸の太さと滑性、投げ方、腕力など多くの要素が複雑に絡み合っている。

現在実用に供されている竿は、カーボンシートを何層か貼り合わせて作られている。硬さの異なるカーボンシートを上手く組み合わせて、銘柄に見合った性能を引き出すのである。軽くて腰の強い竿を作るには、高温で焼成された良質なカーボン素材を使うことになり、必然的に材料費が高くなり高額な竿になってしまう。

性能の良いカーボンシートを使用すると、薄い肉厚で軽くて使い勝手の良い強靭な竿が実現できるが、留意すべきはカーボンシートの疲労寿命である。カーボンシートも金属バネと同じように、繰り返し強いストレスを加えると次第に疲労して徐々に腰が弱くなり、最悪の場合は破壊に至る。

 

〔竿のいろいろ〕

一口に遠投磯竿と言っても、入門用の数千円の竿、中堅レベルの実用的な竿、軽くて腰の強い高額品、中通し竿など、各メーカーから多くの銘柄が発売されている。高額な竿はそれなりに優れた性能を持っていて使い勝手も良いが、お金持ちの釣り人は別として、あまりに高価な竿はヘビーデューティのカゴ釣りには勿体無いように思われる。

しかし、投資金額と使用時間の関係で考えれば、ハリスなどに比べて竿はそれほどコストの高いものではない。毎日のように釣行する人は別として、竿を一度購入すれば何年にも渡って使えるからである。竿を買い換える動機のほとんどは、使用中の竿に飽きてしまったか、新しく発売された銘柄に憧れる浮気心からである。

 

カゴ釣りに適した竿は遠投磯竿の3号から5号だが、それ以外の竿ではカゴ釣りができないわけではない。極端に短い竿や、細くてカゴの重みに耐えられない竿を除けば、手持ちの竿は殆どがカゴ釣りに使用できる。重い負荷を前提とした硬い「投げ竿」ならば長めのクッションゴムを挿入するとか、軟らかい竿ならば軽い錘と細い道糸を使用するなどの工夫をして、既に持っている竿をカゴ釣りに活用していただきたい。手持ちの道具を上手く使いこなすのも、釣りの技術と楽しさの一部である。最初から高価な道具を購入しなくても、カゴとウキさえ揃えれば手軽に始められるのがカゴ釣りの特徴である。そして、そのような工夫と努力が釣り具に対する知識を深め、釣り人の技術向上を促して釣果を伸ばすことになる。

 

〔竿のメンテナンスと修理〕

使用後の竿は真水で洗浄したあとタオルなどで水分を拭き取り、日陰干しにする。竿の表面は乾いても、内部にはまだ水分が残っていて、これは竿尻の水抜き穴から外部へ流出する。水抜き穴は竿尻の中央部に設けられていることが多く、洗浄後に竿を床に垂直に置くと水抜き穴が封じられてしまうので注意したい。

洗浄以外のメンテナンスは殆ど必要ないが、表面の塗装艶が無くなって雨の日など道糸が竿にベタ付くようならば、乾燥タイプのシリコンスプレーを吹き付けたタオルなどで軽く磨けば良好な状態になる。時にはガイド部分にもシリコンを塗布しておけば良好な状態を長期間維持することができる。

 

竿の破損で最も多いのは、穂先の折れである。道糸が絡まっているのに気付かず竿を振ると、穂先部分が折れてしまう。ベテランでも向かい風の夜釣りなどではこのトラブルを起こす場合があるが、殆どは自分で修理することが可能である。

◆トップガイド近傍で折れた場合

ドリル刃を使って、トップガイドの中に残った竿先端のカーボンを除去する。そのままではロッドに差し込むことができないので、ロッド先端をサンドペーパーなどで細くしてから熱融着剤を薄く塗布する。熱融着剤が温かくて柔らかいうちにトップガイドを差し込めば完成である。

◆第1ガイド寄りで折れた場合

もともと第1ガイドがあった場所付近に、新しく購入したトップガイドを挿入して熱融着剤で固定する。竿のガイドは、各種形状・口径のものが大型釣具店などで販売されている。購入する際は店員にことわって竿の#1を店内に持ち込み、第2ガイド内にトップガイドが入って竿が穂先まで完全に仕舞えることを確認する。

 

竿が#2ないし#3で折れるのは、大型魚を無理に抜きあげた時か、竿を強く振りすぎた時である。横風が強い時に竿を強く振ると、竿に捩じれの力が加わって折れ易くなる。不幸にして折れた場合は、竿全体を修理に出すか、折れた番数部を補修パーツとして取り寄せることになる。外ガイド竿では、折れた部分の外径テーパが急な銘柄では、折れた部分の穂先側を少々切り取ってそのまま継いでしまうことが可能である。竿の全長がやや短くなるが、実用上は大きな問題ではない。

 

〔竿が固着した場合の対処〕

竿を伸ばしたのはよいが、振り出し部がロックして仕舞えなくなってしまうというトラブルは、多くの釣り人が経験することである。竿がロックして困るのは、実釣での納竿時よりも、家で洗浄している時の方が多い。何気なく竿を伸ばしながら洗っていて、振り出し部がスッと食い込んでどうにも動かなくなってしまうのである。往年の名竿であるNFTのハイパーループのように6本継ぎでテーパの浅い竿ほど、この固着問題が起きやすい。

ロックしたままの状態で乾燥できるのであれば、まず竿をよく乾かす。振り出し部に潤滑油を注ぐのは逆効果である。二人がかりで捩じっても無理で、プライヤーなど使ったら竿をダメにしてしまう。

まずやるべきことは、タオルを使って竿をよじってみることだ。素手ではロックを解除できなくても、タオルを使えば何とかなる場合が多い。

どうしてもロックを解除することができない場合には、竿尻を思い切り地面に叩きつけるのが唯一最良の方法である。もともと強い力でロックしたわけではないから、竿尻を地面に強く打ち付ければ、どんなロックでも必ず解除される。竿尻が痛むほどのこともない。衝撃でガイドが外れることがあるが、瞬間接着剤か熱融着剤を少々付けてはめ込めば修復できる。

稀に発生するトラブルとして、中通し竿が竿元寄りでロックして、仕舞った状態から伸ばせなくなってしまう場合がある。これを解消するには、竿尻キャップを外して、竿尻内径よりもやや細い木製丸棒を叩きこむのがよい。手頃な径の木製丸棒は、ホームセンターや100円ショップなどで購入することができる。

 

■リール

〔スピニングリールと両軸リール〕

カゴ釣りで使用されるリールには、スピニングリールと両軸リールの2種類がある。

スピニングリールは使い勝手が簡単で安価なものも出回っており、入門用に適している。スプール(道糸を巻く部分)と直角方向に道糸が出るので、道糸にヨレが入りやすいという弱点を有するが、現在の製品はラインローラーまたはラインベアリングの装着によってこの問題を概ね解決している。また、道糸にPEラインを使用することで、ヨレの問題を完全に回避することもできる。ただ、構造的にギア類や主軸のベアリングなどに大きな力が加わることから、重い仕掛けを巻き上げたり大物を取り込んだりするカゴ釣りでは耐久性が問題となる。

 

スピニングリールを購入する際、第一優先となる仕様は道糸の巻き量を表す番数である。同じ番数でも、スプール形状には掘りの深いものと浅いものがあり、堀が浅くてスプールの径が大きく長いほうが遠投には有利である。

番数は6号道糸が120m程度巻ける#3500以上で、スプール径ができるだけ大きいものが望ましい。スプール径が小さなものは道糸の放出抵抗が大きいので遠投には不利である。大口径で長いスプールの方が遠投に有利であるが、スプールに極端なテーパが付いていて先端が細くなっている銘柄は、投入時に道糸が団子状になってリールから放出されやすく、竿のガイドを破損するトラブルが起きやすい。

次に重要な仕様は、ギア比である。カゴ釣りでは重い仕掛けや大型魚を相手にすることから、ギア比の大きい製品では巻き上げが重くて実用的ではない。カゴ釣りに使用されるリールのギア比は、通常3.5:1から5.2:1程度である。

 

両軸リールは構造がシンプルで、耐久性が優れている。最近は両軸リール専用の遠投磯竿が出回り、遠投が楽なことから愛好者が増えてきた。ハンドルの位置が右利き用と左利き用では逆になるので、購入の際は注意が必要である。両軸リールは投げるのは楽だが、巻き上げる時にリールが竿の上側に来る関係で、大物が掛った時に竿を持つ手が疲れるという欠点がある。

 

両軸リールには、投入時に道糸がスプール内で絡み合う問題(バックラッシュあるいはパーマと言われる)があるので、入門用ではない。このトラブルは、仕掛けの飛行速度(道糸がリールから出て行く速度)は投げた直後からどんどん減衰するのに対して、スプールは高速回転を維持したままなので、スプール内で道糸の巻きが膨らんで絡み合うことにより発生する。向かい風で仕掛けの飛行速度が急激に減衰する場合や、胴付きサビキの近距離投入、道糸が竿にまとわり付く雨の日、後ろが崖になっている礒で竿を不自然に振った場合などに発生しやすい。このことから、全天候型で全ての仕掛けに対応するとなれば、どうしてもスピニングリールの方に軍配が上がる。

 

スピニングリールと両軸リールでは、投げ方が全く異なる。スピニングリールでは利き腕の指で道糸を離すタイミングをコントロールするが、両軸リールでは逆になる。両軸リールは慣れるまでバックラッシュが避けられないので、人の居ない堤防や海岸などで、メカニカルブレーキを強めに設定し、8号道糸を巻いて練習するとよい。

両軸リールのバックラッシュは、どんなベテランでも完全に回避することは難しい。込み合った最盛期の堤防などでトラブルが発生したら、道糸をペットボトルなどに素早く巻き込んで、周囲の釣り人に迷惑をかけないようにしたい。

 

〔遠投性能〕

スピニングリールと両軸リールのどちらが遠投性に優れているかという議論があるが、これは一概には結論を出せない。リールから道糸が出て行く時の放出抵抗は、大型スピニングリールに細いPEラインを巻いた場合が最も優れている。両軸リールでは仕掛け発射時に大きな加速度でスプールを回転させるので初期エネルギーの消費が大きく、飛行中もバックラッシュを避けるためにメカニカルブレーキ、遠心ブレーキ、サミング(指先での回転調整)などが必要になるからだ。しかし、両軸リールでは両手のグリップ間隔が広くとれるため、同じ腕力の人が腰の強い竿を振る場合には、両軸リールの方が飛距離を稼ぐことができる。

このことから、200m近くの超遠投が要求される投げ釣りでは、リールシートが竿尻から遠く離れた硬い竿、スプール径が大きく掘りの浅いスピニングリール、空気抵抗の小さい細いPEラインの組み合わせが主流である。

両軸リールでは竿を振る時に両手のグリップ間隔を広く取れるのが利点だが、スピニングリールでこれに対抗するには、竿尻にロッドブースター(アルミパイプなど)を取り付けてグリップ間隔を延長するか、両軸リールと同じ投げ方をすればよい。スピニングリールで両軸リールと同じ投げ方(右利きの人は、左手の指で道糸を押える)をするのは一部の釣り人が行っている方法で、少し練習すればそう難しいものではなさそうだ。これらの施策と、大口径ガイドのスピニング用遠投礒竿、大口径のスプールを持つスピニングリールを組み合わせれば最強の飛距離を実現できるが、竿には大きな負担がかかる。

 

遠投カゴ釣り用の両軸リールとして、ABU-6500CSロケットの人気が高い。このモデルは回転が軽い優れたリールだが、他のモデルでも複数個ある遠心ブレーキの1部を取り外し、回転軸周りに低粘度のオイルを注油することでCSロケットに劣らない遠投性能を引き出すことができる。竿を振り込んで仕掛けが飛行している時、スプールに道糸の膨らみができるようであれば、リールの回転性能として概ね限界に達しているわけだ。しかし、両軸リールでは遠投性能を高めれば高めるほど、バックラッシュの危険もまた大きくなる。

両軸リールのスプールに鉛などを装着して回転慣性を大きくすると飛距離が伸びるという説があるが、これは間違いである。スプールの回転数は発射直後から次第に小さくなり、仕掛けが最高度になった時に回転が最も遅くなる。そして、最高度を過ぎると位置エネルギーが運動エネルギーとして回収されるため、回転数は再び大きくなる。こうした変化に効率的に対応するには、できるだけ軽くて回転慣性の小さいスプールの方がエネルギーロスを小さくできるからである。

 

〔道糸の糸ふけ〕

横風の強い時には投入時に道糸の「糸ふけ」が問題になり、遠投した場合に風下の釣り人に迷惑をかけることになる。両軸リールはスピニングリールよりも糸ふけが少ないと言われるが、これは間違いである。正しくは、「両軸リールでは糸ふけの程度をコントロールすることができる」のである。道糸が出て行く抵抗が少ないほど(遠投性が良いほど)糸ふけも大きくなるわけで、両軸リールではブレーキの設定次第で糸ふけの程度が変わってくる。

糸ふけは投入のテクニックで概ね解決できる問題であり、詳細は「実釣講座」で説明する。

 

〔メンテナンス〕

リールには金属部分が多く、塩に侵されやすいことから、釣行後のメンテナンスが重要である。リールで傷みやすいのは、外回りと可動部である。日本企業の製品であっても、海外産の普及品クラスでは品質管理が不十分なものもあり、最初からグリス量が不足していたり、金メッキ(蒸着)部分の膜厚が極端に薄くて直ぐに変色したり剥げたりするものがある。

 

釣行後の手入れでは、リール本体からスプールだけを外して道糸を真水(できれば温水)の流水にさらして塩抜きする。外回りは湿ったタオルなどで拭いて塩分を落とす。外回り掃除の仕上げに6-66などのオイルスプレーを塗布するのも効果的だが、この場合には必ずスプールを取り外して行う。オイル成分が飛散してナイロン道糸に付着すると、ナイロンの強度を壊滅的に劣化させ、次回の釣行で道糸切れを発生させるからだ。外回りのメッキ部や樹脂部に艶を出したいときは、シリコンスプレーをタオルなどに吹きかけたもので磨けばよい。シリコンスプレーは金属や樹脂に無害で価格も安く、ホームセンターなどで購入することができる。

 

スピニングリールでは、道糸を巻き取るラインベアリングのオイル切れに注意が必要である。ラインベアリングにはシールドタイプが採用されているが、常に海水にさらされるうえに、高速で回転することから、頻繁に低粘度のオイルを注油する必要がある。ベアリングではなくローラーの場合でも、金属軸と樹脂部品の摩擦になるので、オイルかシリコンスプレーの注油が望ましい。ラインローラーを組み立てる際には挿入方向に注意が必要で、径の小さい方をベールから遠い側にする。間違って逆方向に挿入すると、道糸に激しいヨレが発生して使い物にならなくなる。

クラッチ内部にグリスが入り込むと、内部のローラーが動かなくなってクラッチが切れたままとなり、ハンドルが逆回転してしまう。クラッチが正常に動作しなくなった場合は、5-55や6-66などのスプレーでクラッチマウントを十分に洗浄し、油分が乾燥してからリールに組み込む。

両軸リールではクラッチノブと本体の隙間、或いはスプールと本体の隙間から海水がリール内部に浸入するので、定期的な分解掃除が不可欠である。メンテナンスしないまま使用すると内部に塩分が堆積し、やがてクラッチが動かなくなる。アルミボディも、ネジ穴部分などで腐食が進んでしまう。

 

リールのメンテナンスは製造元に依頼することもできるが、普及品クラスなら自分で分解整備することも可能である。ただ、最近の製品は繊細な構造のものが少なくないので、オーバーホールする場合には細心の注意が必要である。

汚れたグリスはパーツクリーナーなどのスプレーを吹きかけて完全に洗浄する。洗浄が不十分のまま新たに異種グリスを塗布すると、新旧グリスが反応し合って油性分が分解し、潤滑劣化の原因となる。使用するグリスは、耐水性の優れるウレアグリスが望ましい。

シーズンオフ後の年越しでは、道糸をスプールから外しスプールをよく洗浄する。これを怠ると、アルミスプールの側面や底面に腐食が進む。

 

〔リールのいろいろ〕

市販されているリールには、安価なものから高級品までいろいろな銘柄がある。リール自体は釣果に直接影響するものではないので、最初から高価な製品を購入する必要は無い。

 

スピニングリールの場合、スプールが同じ形状であっても、スプール材質、クラッチ構造、ボールベアリングの数、オシレーティング構造、防水構造などによって価格には大きな幅がある。

安価なスピニングリールは、ギアストッパー式のクラッチであるから、ハンドルを逆回転させた時にやや遊びがあるが、カゴ釣りでは特に問題にはならない。ボールベアリングが少なく樹脂製の軸受けになっているものは寿命が短いが、価格とのバランスになる。ベールの道糸巻き取り部にラインベアリングまたはラインローラーを搭載せず固定式のものは、道糸に激しいヨレが入るので、この機能搭載は最低条件である。

高額なスピニングリールは使い勝手がよく、防水されていて丸洗いができるが、重負荷のカゴ釣りで使用すると寿命には限界がある。中堅レベルの製品を購入して丁寧にメンテナンスしても、ギアやボールベアリングの摩耗は避けることが出来ない。普及品はオシレーション部に掛かる負荷が重いので摩耗しやすい。

ベアリングに給油しても異音が出始めたら、新品と交換するしかない。以前は補修パーツとしてリールメーカーから取り寄せることができたが、現在はできなくなっているので、通販でベアリング専門店から購入することになる。寸法を測定する手間があるが、リールメーカーからの購入よりもかなり格安だ。

 

両軸リールも、無名のメーカーから2千円~3千円の非常に安価なものが販売されている。これらはボート釣り用として商品化されたものだが、構造そのものは高価な製品と大きな違いは無い。

カゴ釣り用として対象外となるのは、スプールと本体の間に道糸径以上の隙間がある製品だ。これは使用中に道糸を噛み込んでしまうので、全く使い物にならない。この問題が無い両軸リールは、安価なものでも遠投カゴ釣り用として使用可能である。ただ、パーツ精度が悪くて回転が重かったり、投入時にリール本体に歪みが生じてバックラッシュが起きやすかったりするので、実釣に供するにはそれなりの習熟が要求される。安価な両軸リールをスピニング仕様の竿で使いこなすのも、カゴ釣りのひとつの楽しみ方である。

 

Abu-Garcia社のリールに人気があるが、日本での販売価格は異常に高い。欧米での実売価格はせいぜい$100程度であり、日本国内の価格は国際相場の2倍である。日本には愛好者が多く、市場も大きいはずであるが、流通のどこかで大儲けしているに違いない。

 

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